Vers une architecture | 建築をめざして
子供の頃に好きだった絵本は、バージニア・リー・バートンの代表作「ちいさいおうち」でした。
昔々、ずっと田舎の静かなところに、しっかり丈夫に建てられた、きれいなピンク色に塗られた、
小さな家のお話です。最初の頁で建て主がこう言います。「どんなに たくさんの おかねを
くれるといっても、このいえを うることは できないぞ。わたしたちの まごの まごの
そのまた まごのときまで、このいえは、きっと りっぱに たっているだろう。」と。
私の建築実務経験は、仙台の再開発ビル解体工事現場での現場監督業務体験からはじまりました。
来る日も来る日も重機で建物を壊し、大量のコンクリート殻と鉄筋を大型ダンプで運び出します。
解体工事が終わると、いよいよ新築工事へ。今度は来る日も来る日も重機で土を掘り返し、大量
の土を大型ダンプでひたすら運び出します。大量の鉄筋とコンクリートで基礎をつくり、工場で
製作された大量の鉄骨をタワークレーンと鳶職人とで組上げ、現場監督が精度を測り、ボルトを
締めて最後に溶接を終えると、建物の構造体がようやく完成します。
構造体だけの生まれたばかりの空間に身を置いて、素材そのものの力強さを目のあたりにして、
建物を構築しようとする人間の意志に感動を覚え、建築がさらに好きになりました。
私の建築設計は、現場監督の職を辞して行った世界の名作建築を探訪する旅で訪れた土着集落や
有名建築での空間体験がベースになっています。ゴルドバのメスキータ、マテーラの洞窟住居、
南仏のル・トロネ、コルビュジェの母の家、アアルトのマイレア邸、感動した建築作品は数えき
れない程ありました。特に印象に残っているのが、アメリカ・ペンシルバニア州のチェスナット
ヒルに建つ、ルイス・カーン設計のエシェリック邸を訪れた時のことです。家の前で外観をスケ
ッチをしていると、丁度ご主人が忘れ物を取りに車で戻って来ました。挨拶をして、どうしても
実物を見てみたくて日本から来たと伝えたところ、なんと私を家の中へ案内してくれたのです。
恋焦がれていた巨匠の建築の中に身を置いて、背中のゾクゾクが止まらない程の感動を味わいな
がら、住み手が今もこの家をとても大切にしているのがわかり、また建築が好きになりました。
私は建築が大好きです。できれば、時代を超えて存在する建築をつくりたいと思っています。
建築をつくることは施主・設計者・施工者の奇跡的な出会いにより、初めてはじまります。
(最初の施主とは、世界の名作建築を探訪する旅の途中で偶然出会いました)
出会いを大切にしながら、出会った三者でしかつくることのできない「世界に一つだけの建築」
を一緒につくりあげましょう!